資料調査報告(No.1) 2009年10月発行「電気部 装備機器の変遷」

1.動力・配電システム

1-1.発電機

発電機のここ50年程の変遷は
(1)直流から交流へ
(2)直流励磁方式からブラッシュレスへ
(3)絶縁種がB種からF種へ更にH種へ
(4)船舶の大型化や船内電源需要の増大による発電量の増大
(総発電量 1960年頃 1600KW,1966年頃 3000KW(大型タンカー対応)、
1970年頃 6000KW(高速コンテナ船対応)、
2000年頃 8000KW(LNG船、大型コンテナ船対応))、
(5)発電機容量増大による低圧から高圧へ(440Vから6600Vへ)等々の観点から捉えられる。
また (6)容量の増大から発電機台数の増加もあり、自動同期投入や自動負荷分担等から全体を総合的に制御するパワーマネージメントの導入、さらに
(7)省エネのニーズに対応するため排ガスターボ発電機や軸発電機の導入などが行われてきた。

1)直流励磁機方式発電機

1955年(昭和30年)頃 交流発電機は 直流励磁機方式でAVRは有接点式であった。
1958年(昭和33年)頃 自励複巻式交流発電機(ブラシ付き)が、AVRには磁気増幅器が用いられるようになった。
そのころの発電機はブラシ付なのでその摩耗や粉じんの影響による絶縁低下で保守点検に問題があった。 絶縁はB種であった。

直流励磁機方式発電機
直流励磁機方式発電機 磁気増幅器型AVR (床置型)

写真は西芝電機の資料より

2)ブラシレス方式発電機

1960年代後半から回転整流器(シリコン整流素子)を組み込んだブラシレス交流発電機が用いられ始め、現在に至っている。 AVRも全半導体式が主流になった。 1970年頃より絶縁種は F種となる。

ブラシレス方式発電機 全半導体型AVR (ラック式) 最近壁AVR (壁取付式)

写真は西芝電機の資料より

全閉水冷型 1100KVA, 450V, 600rpm

写真は大洋電機の発電機 昭和42年頃

800KVA, 4P, 450V, 60Hz, 1800rpm

写真は神鋼電機の発電機 昭和42年頃

3)PMG付ブラシレス方式発電機

PMG付ブラシレス方式発電機

写真は西芝電機の資料より

2005年頃 PMG式ブラシレス方式が開発された。

PMG :
Permanent Magnet Generator の略
永久磁石を使った副励磁機で発電機の回転数に比例した電圧を検出し、それをAVRに入力し励磁機の励磁を制御して発電機の出力電圧を一定に保つ方式。

4)軸発電装置

1980年代には、省エネルギー、船内の省力化を目的に軸発電装置が実用化された。
主機の回転数の変動による発電周波数の変動の制御が半導体インバータの開発により容易になったことが背景にある。

3500KW軸発発電装置組合せ試験

写真は西芝電機の資料より

5)高圧発電機

2000年頃、LNG船やコンテナ船の大型化による船内電力需要の増大に対応するため、発電機の高圧化が図られた。

高圧発電機(IP44 水冷クーラ付)

写真は西芝電機の資料より

1-2.動力装置

1)電動機

1954年以前は 船舶の電源は殆んど直流だったので、動力装置としては直流電動機が用いられた。
1955年頃から船内電源は交流に変わり、保守点検が容易で安価な交流電動機が用いられるようになった。

当初は NEMAサイズのA種絶縁、B種絶縁のものが用いられていたが、1960年代には 国際電気標準会議の推薦規格の制定に伴い、IECサイズのE種絶縁のものが用いられるようになった。
1980年代には 絶縁材の性能向上に伴い、小型機ではB種、中型機ではF種が用いられるようになった。

電動機の外被構造については 全機種について自己通風保護防滴型および全閉外扇型が併用されてきたが、保守の合理化、耐環境性の面から小型機では全閉外扇型が多用されるようになった。

NEMA:保護防滴型 IEC:全閉外扇型

2)速度制御

電動機の速度制御は 直流電動機では抵抗制御、界磁制御、電圧制御などの方式があり、広範囲な制御が容易であるが、 交流電動機では極数切り替えや周波数変換を行わねばならないので、かなり面倒であった。

しかし、サイリスターやパワートランジスターが出現し、それらが大容量化するにつれ、適用範囲が広がり制御も容易になってきた。サイリスターは1960年代から使われ始めたが、ゲート信号によるON/OFFが可能なGTO(Gate Turn Off Thyristor) が出現し、サイリスターによる交流電動機の速度制御が進んだ(サイリスター静止レオナード方式)。

なお、それ以前は 交流電動機でM-G(Motor-Generator)を駆動し、Gの電圧を制御するワードレオナード方式が用いられていた。
さらに1970年代には、パワートランジスターの出現により高速制御が可能となったため交流電動機の速度制御はPWMインバータ方式へと変わっていった。 (PWM:Pulse Width Modulation)

注) パワートランジスターの変遷

  1. ・1970年代 パワーMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor) 高速動作可能
  2. ・1980年代 IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor) 高速動作、大容量可能
  3. ・1990年代 IEGT(Injection Enhanced Gate Transistor)高速動作、高耐圧可能

3)甲板機械(揚錨機、係船機、など)及び揚貨機

甲板部の動力装置は大きく分けて係船に使用するものと荷役に使用するものとがあるが、いずれも速度制御が必要であり、また操作性は簡単で信頼性の高いものでなければならない。

甲板補機用電動機の速度制御は、極数変換、巻線形電動機の二次抵抗制御が用いられていたが、1970年代以降、油圧ポンプ制御の進歩から殆ど油圧ポンプが用いられてきた。

揚貨機では、直流電動機の速度制御が用いられていたが、荷役方式もデリックウインチからデッキクレーンに変り、速度制御は殆ど油圧ポンプ制御が用いられている。ガントリークレーンでは、油圧ポンプの容量的な課題から、直流電動機のサイリスタレオナード制御が用いられていた。

甲板補機では、環境問題(効率、漏油など)から、2000年以降から、電動ウインチの採用が増加しており、制御方式はPWMインバータ制御が用いられている。
また、現在はガントリークレーンを含む大容量電動機の制御にもPWMインバータが適用されている。

TH型レオナードウインチ (大洋電機)(SCR制御方式) 電動ウィンチ (西芝電機)2000年以降 インバータ制御盤 ×3

パワーデバイスを使用した静止形可変速システムは、電動機の速度が0 ~ 定格回転数の範囲でステップレスの速度制御が可能で、加速トルクも任意の値に設定が出来、優れた操縦性能を有し、省メンテナンスになるが、パワーデバイスの動作原理から電源電圧に歪を生じ、高次高調波成分が増加する課題がある。

高調波成分は、電源容量の調整などで十分小さい値に低減し、動力及び制御電線の敷設方法などで他の電子機器などへの影響は防止されている。

4)機関室などの補機

機関部の電動補機は主にポンプと送風機である。きめ細かい速度制御を必要とする用途は甲板部ほど多くないが、風量制御などは送風機の台数制御、バルブ制御、または極数変換による速度制御で対応している。

今後は、プラント全体の経済性や省エネ等のニーズからインバータによる速度制御が注目されると思われる。
インバータはバルブ制御による流量制御、油圧ポンプによる速度制御などに比べて省エネルギー効果が高いことが良く知られており、ポンプ・通風機などへの適用が今後増加するものと考えられる。

1-3.配電装置

配電装置は主として主配電盤・補助配電盤、始動器盤などからなり、船内の各種設備に電源を配電すると共に短絡や過電流に対する保護機能をも有するものであるが、構成上、発電機制御や監視機能を含むものが多い。

配電装置は発電機との関連が深く、船の大型化や高度化により船内電力需要が増え、発電機が大型になり台数が増え、また高電圧が採用されるに伴い発展進化してきた。配電装置に組込まれる制御の内容は、発電機の速度制御、電圧制御、並行運転制御 (自動同期投入、自動負荷分担)などが挙げられるが、給電系統の維持を図るため、選択遮断や優先遮断などの保護機能も備えている。

さらに省エネのニーズにより、軸発電装置や排ガスターボ発電機などが採用されるにつれ、発電・配電システム全体を最適に制御・管理するパワーマネージメントへと発展してきている。
一方、配電盤の主要部品であるACB(Air Circuit Breaker)やMCCB(Moulded Case Circuit Breaker)の高性能化、小型化の進展や絶縁材料の性能向上もあり、パネルそのものの小型化も進んでいる。
パネルの大きさは容積比で1970年頃を100とすると、1980年頃には約54、1990年頃には約33になったと報告されている。 (寺崎電気技報による)

1) 主配電盤 (Main Switch Board)

寺崎電気の発電機盤、主配電盤 (昭和43年頃) (船舶電気工学 便覧の広告より)
大洋電機の発電機盤、主配電盤 (昭和43年頃)(船舶電気工学 便覧の広告より)
寺崎電気の主配電盤(2000年頃)
盤の大きさは容積比で1970年の1/3
寺崎電気の高圧配電盤(2000年頃)(カタログより)
大型コンテナ船、LNG船の登場で船内の電力需要が増えたので高電圧化が進んだ。
大洋電機の主配電盤(2000年頃)

2) 集合始動器盤 (Group Starter Panel)

三菱電機の集合始動器盤(GSP)(1968年(昭和43年)頃)(船舶電気工学 便覧の広告より) 寺崎電気のGPS(2000年頃)(カタログより)

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