随想 ・ 造波抵抗論議あれこれ

中速船(Fn=0.27-0.18)船型設計コンセプト

Fig.15 航海フルード数と方形係数Cbの関係

今まで、高速船のことばかり述べてきた。 今度は中速船へ話しを移そう。 その前に、一般の従来船の、航海フルード数Fnと方形係数Cbの関係をFig.15に示した。 永い年月の間に●印と太い実線のような標準的な関係ができたようである。

すなわち、航海Fn=0.30はCb=0.50、 Fn=0.28はCb=0.55、 Fn=0.26はCb=0.60、 Fn=0.24はCb=0.65、 Fn=0.22はCb=0.70、 Fn=0.20はCb=0.75、 Fn=0.18はCb=0.80、 Fn=0.16はCb=0.85が標準である。 そしてFn=0.30-0.28を高速船、 Fn=0.27-0.18を中速船、 Fn=0.16以下を低速船と呼ぶことにする。

高速船のCp曲線の最適形状は、船体中央頂部の曲率が強く、船首先細りの形状で、球状船首が小さい(5-6%中央断面積FP)。 極小造波抵抗理論船型、他の造波抵抗理論船型、Taylor船型、いずれも、同じ形状になる。 「やせ型高速船型」としてよく知られ、余り設計上の問題は起きないから本文では取扱わない。

さて、中速船は、フルード数も低く、一見、造波抵抗上の問題はないように見えるが、そうではなく、造波は船体中央平行部に発生せず、船首尾部に集中するので、中央平行部と船首尾部の接続部(接続部は通常、滑らかに角が落とされるが、そうでない場合もある)、および船首部と球状船首との接合部に圧力分布の不具合が起り易い。 そうなると、大きな抵抗増加が生じ、要注意である。 例えばフルード数Fn=0.26の中速船を例にすると、中央平行部長さは約0.2Lpp(接続部の角を落とすから実際はこれより短い)、造波抵抗に直結する船首FnはFnE=1/(0.8)^0.5×0.26(Fn)=0.29となる。

また、船首部の長さ・幅比は小さく、結構、幅広高速船である。 非線形造波も増大する。 Fig.15の●印ではCbが0.60(標準値)と小さいから、余り問題は起きないが、○印のA船、B船のようにCb値を破線の位置または、それ近くまで、引上げると、通常の場合、必ずと云ってもよい程、抵抗が急増し、性能が低下する。 以下、このA船、B船を例として中速船の船型設計コンセプトを述べたいと思う。

第1例 Fn=0.26、Cb=0.60-?0.63 B船(冷凍運搬船) (Fig.16、Fig.17参照)

Fig.16 Fn=026 B船(冷凍運搬船) 従来型と改正型 Cp曲線比較

Fig.17
上 B船(冷凍運搬船)、従来型、船側波形SS.9で波発生、SS.8は船側波凹入
下 船首Cp曲線を最適値FnE=0.34極小造波型に改正後 波形均一

第1例はFig.15に○印で記載したB船(冷凍運搬船)を取上げる。 Fig.16にB船の従来船型Cp曲線を破線で、改正船型Cp曲線を実線で、また、Fig.17 に両船の水槽試験の船側波形写真を示す。 Fn=0.26のこの船型(冷凍運搬船)はバナナ状態のときにFn=0.27を要求される過酷な船型である。 この船のCbを0.60→0.63に引上げる場合は、母型のCp曲線の形状はその儘にして、中央平行部長さを0.2Lpp→0.26Lpp程度(接続部の角を落とすから、実際の中央平行部は、これより短い)まで大きくするのが普通で、それで、方形係数はCb=0.63となる。 これを従来船型と名付ける。

船首フルード数は、FnE=1/(0.74)^0.5=0.30で、改正前と余り変わらない。 やせ型高速フェリー並みの値である。SS.6-7が「肩張り」状態になり、この部分の船体表面圧力は負圧、SS.9.5付近もCp曲線の凹みが目立ち、船体表面の圧力が上昇して船側波を盛り上げる。船首バルブ先端から出る波と、SS.9付近から出る波の2条の船首波が発生する。 Fig.15左側に図示するように、計画速力において、従来船型のrR曲線値は急増し、船の性能がおかしくなる。 この対策は、「-高フルード船(Fn=0.30-0.45)船型設計コンセプト-、2 航海Fn=0.30-0.35の船型」に述べたように高速向きのCp曲線を採用する。 すなわち、従来船の船首部形状を最適Fn=0.34の極小造波Cp曲線(かなり余裕をとった高速側)に入れ替える。

この改正Cp曲線をFig.16 に実線(B船)で記載した。 SS7.肩部は削られて、滑らかな曲線に直り、SS.9の凹みが埋められておとなしい凹みに変えられる。 それで、船首部表面圧力は均一分布に変わる。 Fig.17下に示しているのが、改正後の水槽試験の写真である。 船側波形は均一化されている。 剰余抵抗値はFig.15の左側図の推奨船型のrR曲線のように低下し、Cb増大に関わらず性能が改善される。

第2例 Fn=0.21、Cb=0.73–?0.78 A船(ケミカルT) (Fig.16、Fig.18参照)

Fig.16 Fn=0.21 A船(ケミカルタンカー) 従来型と改正型 Cp曲線比較

Fig.18
上 A船(ケミカルタンカー) 従来型 船側波形
下 船首Cp曲線を最適値FnE=0.38 (太古型) 極小造波型に改正後 波形均一になる

第2例では、Fig.15 記載、○印のA船(ケミカルタンカー)について述べる。 Fn=0.21、Cb=0.73の従来船をCb=0.78まで、Cbを0.05大きくする。 従来船型(Cb=0.78)の中央平行部長さは約0.55Lpp(Cb増大のため0.45Lpp→0.55Lpp)(接続部の角を落とすから、実際の中央平行部はこれより短い)、かなり長大である。 Fig.16に示されるように、肩部凸出、船首部凹入が大きいのは、長大な中央平行部が、Cp曲線を船首方向へ圧縮するからである。 短い船首部内で船体表面の負圧、正圧の圧力が激しく変動し、Fig.18上の水槽試験波形写真のように、船側水位の凹凸が甚だしい。 こう云う状態では船体抵抗もかなり増加する。

対策として、この場合も、Fn>0.3高速船コンセプトを流用して、船首部形状を思い切って高速向きとし、最適Fn=0.38の極小造波抵抗Cp曲線に入れ替える。 この最適FnE=0.38の採用によってSS.8.7から船首端までのCp曲線は直線状になる。 そして、球状船首と首船船体は一体化する。 Fig.18下は改正後の水槽試験船側波形である。 船側水位の凹凸が僅少になり、Fig.15の左側図の推奨船型rR曲線のように、抵抗が減少する。 排水量増大による馬力損失を吸収して、逆に所要馬力は低減する。 今後は、大きなCb値、主船体と長大な球状船首は一体化し、直線状に近い船首水線形状の船が流行るかも知れない。

B船、A船の話しを総合すると、「すべての中速船に通ずることであるが、Cbを増大させる場合は、船首部形状を極小造波抵抗Cp曲線(Fn=0.34-0.38)に入れ替え、船体表面の負圧、正圧を均一化させる必要がある。 そうすれば、所要馬力が低減する優れた船型をうることができる。 高速船で述べたコンセプトと全く同じである。」

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