随想 ・ 造波抵抗論議あれこれ

はじめに

保存委員会、「乾先生のウエーブレスハルフォーム」のことで、内藤先生にお会いし、また藤村さんとメール交信しました。 それで、忘れていた昔が懐かしく蘇りました。 下川さん、大野道夫さん、間野さんが多くの回顧談を投稿され、間野さん、岡本さんから、「古いお話し」を残すよう薦められており、私も何か書こうと云う気になりましたが、「我田引水」「唯我独尊」にならないかと案じ、気が進まないままに日が過ぎました。

私の経験談と云えば、やはり、「くれない丸球状船首実船試験」を契機に始まった船型設計の事柄が蘇ります。 思案の末、やっと次の2点を選びました。 一つ目は、造波抵抗は100年前の昔(タイタニック時代)に較べどれだけ減少したかと云うこと。 10年前、旧Kシニアで、タイタニックを調査した時、船台上の同船写真や、入手した船体正面線図を眺めて、推進抵抗性能を推定してみたいと思いましたが、面倒なので止めました。

今回またそれらを引出し、「若返りのトレーニング」を兼ねて推定計算を試みました。 よそにない内容ですから、これを述べます。 二つ目は、「フルード数0.3以上、数多くの高速船、設計経験からえたノウハウ」です。 併せて「中速船の船型設計コンセプト」も述べます。 随想と云うより、堅い論説に属するようなものなので、専門分野以外の方には興味薄い内容です。 けれども、これまで、公表文献が少ない分野であり、そして、経験の積重ねから導かれ、自身が納得するコンセプトです(数字の説明ではありません)。 現役の人も読むものと考え、あえて書き残します。

 

追記:

最近は、各社の設計プログラムも完成度が高まり、新造船の船体線図作成も殆ど自動化されています。 設計の省力化はよいのですが、人と機械が互角に主役を務めるのでなく、機械だけが主役になるのではないかと懸念します。

推進抵抗性能はStrength、Stability、Speed、造船設計3S部門の一部門、造船技術革新の歴史を担ってきた重要部門です。 相矛盾する3部門間を最適にコンプロマイズし、最優秀船を生み出すことこそ、船舶基本設計(シンセシス)の真髄です。

  • ・安全 (適正強度、 高復原性、 高耐航性、 高操縦性)、
  • ・経済性 (DW増大、 スペース増、 工作容易化、 資財軽量化、 幅広短小化、 船価低減)、
  • ・性能革新 (重量軽減、 省エネルギー、 スピードアップ、 高機能化、 地球環境保護)

等の複雑な諸事情の狭間に立って、シンセシスを成功させるためには、電算機でなく、人間の「スピリット」、柔軟な「決断能力」が必要です。

船型設計はシンセシスの最たるものです。 設計者の「スピリット」の育成が、今後の課題だと思います。 造船工業から撤退した北欧で、世界最大、ユニークで近代的なクルーズ客船が続々と、しかも、活き活きと誕生しているのは、電算プログラム、生産システムだけのお陰でなく、船を造る彼等の心に、バイキング時代の「スピリット」、「伝統文化への誇り」が宿っているからだと思います。

日本は20世紀後半、一連の造船技術の革新を成し遂げました。 そのように、「スピリット」の持主です。 これからの若い人達が、本文を単なる個人的な技術情報に留めず、産学共同で達成された「日本造船技術革新の歴史」の一部分と解釈し、今後の造船発展に資して貰えば幸です。

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