資料調査報告(No.2):2010年3月発行「工業高校における造船教育の軌跡」

6.造船教育の教科書作成の努力

昭和22(1947).3.31.公布の「学校教育法」と昭和23(1948).1.27制定の「高等学校設置基準」によって旧制の工業学校は昭和23(1948).4から工業高等学校となった。
高等学校学習指導要領の改訂で、昭和35(1960).10.15の告示により「工業の各分野における中堅の技術者に必要な知識と技術を習得させる」となった。これは改訂前では作業員の養成であったものを技術員の養成を目ざすこと改められた。

この変化は現場の教職者たちに大きな困難を与えたと思われる。元来、学校数が少ないため公刊された教科書などは乏しかったと推定されるが、さらに教育内容の変革が起こったので使える教科書は皆無に等しかったであろう。

この苦悩の中で、“造船教育の資料を収集・作成・研究し、造船教育の充実振興を計ることを目的として昭和34年11月関係工業高校の教職員によって「全国造船教育研究会」が組織された。発足以来教科書の編集計画、学習指導要領や設置基準の改定の提案、研究会、実技講習会の開催などの活動を続け、昭和38年から会誌(年刊)を発行する”に至った。(「昭和造船史第2巻」P640による) 教科書原稿の作成、推敲、校正、ワークブックや解答集の作成など、先生方のご努力には頭の下がる思いがする。
今回、提供品「全国造船教育研究会 会誌」[15]を調査した年表を「添付資料―4 全国高校造船科年譜と高校造船教育研究会の歩み」を添付した。

作成された教科書は一部が最終的に「文部省」の名で公刊されるなど、教科書がほぼ整備されたのは昭和50年代央になっており、卒業生を送り込むべき造船界は不況に突入してしまった時期である。先生方の折角の労苦は報われること少なかったのではないかと、これらの資料を目にすると感慨無量な思いに駆られる。

「全国造船教育研究会」が編纂した教科書;

 

教科書名 初版発行年 著作者名 発行者
船舶ぎ装+附図 [教材プリント版] S38[1963]/10 全国造船教育研究会 全国造船教育研究会
船舶構造 S39[1964]/3/25 文部省 実教出版(株)
船舶設計 [教材プリント版] S39[1964]/4 全国造船教育研究会 全国造船教育研究会
船舶工作 [教材プリント版] S40[1965]/6 全国造船教育研究会 全国造船教育研究会
船舶ぎ装+附図 S41[1966]/3/25 文部省 実教出版(株)
船舶製図 [教材プリント版] S41[1966]/4 全国造船教育研究会 全国造船教育研究会
船舶工作 S42[1967]/4/1 全国造船教育研究会 海文堂
商船設計 [旧船舶設計の改名] S44[1969]/4/1 全国造船教育研究会 海文堂
指導書:造船実習書 S44[1969]/4/15 全国造船教育研究会 全国造船教育研究会
船舶応用力学:下巻 S45[1970]/7 全国造船教育研究会 全国造船教育研究会
造船工学 S50[1975]/6/10 全国造船教育研究会 海文堂
船舶製図 S51[1976]/3/20 文部省 東京電機大学出版部
造船力学 S53[1978]/2/25 文部省 実教出版(株)
造船力学ワークブック・船舶計算 S54[1979]/4 全国造船教育研究会 全国造船教育研究会
造船工学ワークブック・I S54[1979]/4 全国造船教育研究会 全国造船教育研究会
造船工学ワークブック・II S55[1980]/7 全国造船教育研究会 全国造船教育研究会
造船製図 [旧船舶製図の改訂版] S60[1985]/3/5 文部省 海文堂

「全国造船教育研究会」の教科書編纂に対して大学や造船業界の協力の概要はつぎの通りである。

  1. 1)昭和38年12月16日「全国造船教育研究会」顧問として、三菱長崎造船所設計部長 岡部利正氏が就任。
  2. 2)初版S39/3/25教科書「船舶構造」編集委員に大学・造船界から三菱日本重工(株)横浜 大井浩氏、横浜国立大 沢村鶴松教授、浦賀船渠(株)浦賀造船所 吉田精一氏が就任。
  3. 3)初版S41/3/25教科書「船舶ぎ装」編集委員に大学・造船界から大阪府立大池田勝助手、大阪府立大岩佐英介教授、日立造船(株)佐藤茂設計部長、川崎重工業(株)種村真吾設計課長、大阪大学寺沢一雄教授、新三菱神戸造船所富川直彦技師、新三菱神戸造船所中村貴憲設計部次長、大阪大学長谷川進講師、日立造船(株)吉川雄三設計係長が就任。
  4. 4)昭和41年5月:教材「船舶製図」、「船舶工作」の教材整備補助金を日本造船工業会より受ける。
  5. 5)昭和41年5月6日:教材「船舶工作」の校閲を日本鋼管(株)、浦賀重工業(株)、三菱重工業(株)へ依頼。
  6. 6)初版S44/4/1教科書「商船設計」編集者に大学から徳島大 土田幸雄教授が就任。
  7. 7)昭和46年10月27日:教材「船舶工学」の編集に対する日本造船工業会の援助が承認される。
  8. 8)昭和46年11月10日:教材「船舶工学」の編集委員に石川島播磨重工(株)、住友重機(株)、日本鋼管(株)、三井造船(株)、三菱重工業(株)へ依頼。
  9. 9)初版S51/3/20教科書「船舶製図」編集協力者に大学・造船界から九州大工学部 福田淳一助教授、三菱重工(株)下関 原田久明基本設計課長、林兼造船(株)吉田隆造船設計部次長が参加。
  10. 10)昭和51年12月15日:教科書「造船力学」草案審議会に造船界から日本鋼管(株)太田徹氏、三井造船(株)玉木一三氏が出席。
  11. 11)昭和54年10月8日:教科書「船舶製図」改訂編集委員に大学・造船界から九大工学部 福田淳一教授、広大工学部 原田久明教授、三菱重工下関 坂田章一氏が就任。
  12. 12)初版S60/3/5教科書「船舶製図」の編纂に大学・造船界から;
    編集協力者:九大工学部 福田淳一教授、広大工学部 原田久明教授、三菱重工(株)広島 坂田章一海洋鉄構部長が参加。
    審査協力者:日本鋼管(株)第2船舶設計部 太田徹海洋基本設計室課長、東大 小山健夫教授、
    三菱重工(株)下関 関彦太造船設計部長、横浜国立大 中村貴憲教授が参加。

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