資料調査報告(No.8) :2012年6月発行 技術専門雑誌による船舶電気技術関係記事年表

2011年12月 保存委員会 委員 大谷昇一

まえがき

  1. 保存委員会の活動の一環として、船舶に装備されてきた電気機器の変遷を見るため、古い電気機器の影像の採取を行ってきたが、影像だけでは各時代の技術レベルや技術動向を浮かび上がらせることは困難であり、限界もあるので、ここでは、船舶関係の雑誌「船舶」と「船の科学」に掲載された電気関係の論文や記事の題名を採取し、年代順に並べてみることにした。

    題名だけでは詳しい技術内容までは分からないが、各時代でどのような技術問題があり、それにどのように対応しようとしてきたか、またどんな製品が開発され提供されてきたかは、大よそ把握できるのではないかと思う。

    雑誌に取り上げられた記事は下記に示すように、その時代の技術問題ばかりでなく、未来の予測、新しいシステムの検討、新製品の紹介など多岐に亘るので、その時代そのものだけを映している訳ではないが、時代の熱気や雰囲気は映していると言えよう。 従って先進的な題名があっても、必ずしもそれがその時代に実現されているものではない場合もあるし、予測に過ぎない場合もある。 これらの記事を分類すると、大よそ次のようになる。

    (1) その時代の技術的問題とその対応 (電源交流化の問題、電動ウインチ、発電機並列運転など)

  2. (2) 新しい機器の原理の解説 (レーダ、ロラン、デッカナビゲータなど)
  3. (3) 新しいシステムの検討、提案 (コンピュータシステムの船舶への応用、人工衛星を利用したシステム、機関部や荷役システムの自動化など)
  4. (4) 新しい製品を船舶に搭載した試験結果の報告 (センサーの耐久性、信頼性)
  5. (5) 新製品の紹介 (主機リモコン、レーダ、ロランなど)
  6. (6) 各種機器のグラビヤ写真 (航海計器類の写真など)
  7. (7) 電気艤装に関するもの (電路、接続箱、端子、分電箱など)

    雑誌というものの特長かも知れないが、いろんな記事がランダムに散りばめられ、意外性があるところが面白い。 ここでは題名だけで詳しい内容に触れられないのは残念であるが、年代順に並べられた題銘から、いつの時代にも いろいろな問題があり、それに如何に対応してきたかが感じられると思う。 このことから、先人のご苦労を感じ取っていただければ幸いである。

1. 船舶電気関係記事年表 (昭和20年代)

123KB、3ページ:本文を読む

2. 船舶電気関係記事年表 (昭和30~34年)

132KB、4ページ:本文を読む

3. 船舶電気関係記事年表 (昭和35~39年)

158KB、4ページ:本文を読む

4. 船舶電気関係記事年表 (昭和40~44年)

117KB、3ページ:本文を読む

5. 船舶電気関係記事年表 (昭和45~49年)

137MB、4ページ:本文を読む

6. 船舶電気関係記事年表 (昭和50~54年)

116KB、3ページ:本文を読む

7. 船舶電気関係記事年表 (昭和55~59年)

117KB、3ページ:本文を読む

8. 船舶電気関係記事年表 (昭和60~63年)

147KB、4ページ:本文を読む

9. 船舶電気関係記事年表 (平成元年~06年)

109KB、3ページ:本文を読む


調査概要と特記事項

  • 1.船舶の電気関係の技術の変遷をたどるべく、ここでは船舶関係の雑誌「船舶」と「船の科学」に掲載された電気関係の記事の項目を抽出して年表形式に並べてみた。
    これらの雑誌は当保存委員会に各方面より寄贈されたもので、一部欠号があるものの、かなり揃っているので技術の流れはほぼ掴めると思う。
    ここで参照にしたのは
  • 「船舶」
    1951年2月号(昭和26年2月)から 1971年6月号(昭和46年6月)まで(ただし 1969年(昭和44年) は全号欠けている。)
  • 「船の科学」
    1949年3月号(昭和24年3月) から 1964年12月号(昭和39年12月)まで
    1969年10月号(昭和44年10月)から 1994年12月号まで
  • である。

2.(まえがき)にも記したように、雑誌の記事には 技術問題、最新技術の解説、連載講座、製品紹介などがあるので注目したが、さらに技術短信、海外短信、ニュースや秘話、エピソードなどが掲載されていて面白いと思った。

3.秘話として興味深いものは 例えば「船の科学」の1991年2月号の「レーダが連絡船に装備されるにいたった経緯と秘話」や1992年1月号の「昭和天皇とレーダ」などである。
前者は連絡船のレーダ装備についてGHQとやりあった話で敗戦国の状況が良く分かる。 後者は昭和28年10月、昭和天皇、皇后両陛下が宇高連絡船 紫雲丸に乗船され、レーダを御覧になった御様子を記したものである。

4.各年代ごとに 特長を見てゆくと、まず昭和20年代は、戦後米軍の軍事技術が一般に開放された時代で、これによりレーダ、ロラン、音響測深機などが商船に利用され始めたので、この関係の記事が多く見られる。 また電源の交流化や主機リモコンなどの自動化の動きも見られる。

5.昭和30年代前半は、電源交流化に伴う配電系統の問題や最新の航海計器の解説、陸上の工業界のオートメーションの動きに刺激されてか、船舶とオートメーションなどの記事が見られる。

6.昭和30年代の後半は 船舶の自動化についての記事が多い。 山下汽船 佐渡春丸,山利丸、 三井船舶 金華山丸,春日丸,高峰山丸、 大阪商船 おりおん丸 などである。 電源交流化による発電機制御、電動機制御、交流電動ウインチの記事も多い。

7.昭和40年代前半は 電子機器のオール・トランジスタ化(ロラン受信機など)や船用の水晶時計の開発、電子計算機の利用(コンピューティング・ロガー、航海ロガー、レーダへの応用(トルーモーション))など、また電波を使った船舶速度測定装置(MARSMEC)などの紹介記事が見られる。 ディジタル計測技術が急速に進歩した時代であった。

8.昭和40年代後半は ミニ・コンピュータを搭載した超自動化船の時代であった。 多くの超自動化船が建造された。三光汽船 星光丸、 山下新日本汽船 新幡丸、 商船三井 三峰山丸、 川崎汽船 大津川丸、 日本郵船 鳥取丸、 昭和海運 錦江丸、 第一中央汽船 香取丸などである。
この時代は航法システムでもNNSS(Navy Navigation Satellite System)やオメガなど画期的なシステムが開発されていて、それらの記事も多く見られる。

9.昭和50年代前半は ミニ・コンピュータの価格低下、マイクロ・コンピュータの実用化の進展などによって、各機器にコンピュータが組み込まれ始めた。 衝突予防レーダ、衛星航法装置、積付計算機、荷役自動化システムなどで、それらに関連する記事が多い。 また昭和40年代後半の原油価格の高騰を受け、主機駆動発電システムや排ガス利用の発電システムなどの省エネ・システムへの検討が始まった。

10.昭和50年代後半は 前の時代に開発、検討されたシステムが商品化、実用化された時代である。 ディーゼル機関の状態監視・異常予測システム、省エネ関連の主機関の排ガス利用発電システムや軸発システムなどである。
光ファイバ伝送システムの利用が試行されたり、超電導電磁推進船の検討も始められた。

11.昭和60年代初めは シリーズ・日本の艦艇・商船の電気技術史など今までの歴史を振り返る記事が目立つが目新しい技術についての記事は殆んどない。 コンピュータを利用したシステムや製品の開発が一段落したためと思われる。

12.平成元年~6年も 電気技術史についての記事が主で、目新しい記事は殆んどない。 雑誌の記事も全般に淡白で熱気が薄れている感じがする。

13.「連絡船メモ」と云う記事が「船の科学」昭和51年7月まで99回に亘り連載されている。 連絡船には 新しい方式、新しい機器が積極的に取り入れられ、造船所、関連メーカに大きな影響を与えた。 造船界の発展に大きく貢献したと言えよう。 主要な連絡船が姿を消した今、連絡船の果たした役割、貢献を改めて評価すべきではないかと感じる。

14.昭和40年代半ばから50年代初めにかけて、ミニ・コンピュータを搭載した自動化船、超自動化船の記事が多く掲載されている。 陸上ではオートメーションが進み、船舶にも自動化の機運が高まった時代である。 造船業界も好況で、熱気溢れる時代であったと記憶している。 この「超自動化船」については、稿を改めて写真も多く入れてまとめて見たいと思っている。

以上

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