資料調査報告(No.5):2010年10月2日発行 雑誌「船舶」の掲載広告に見る船舶装備機器の変遷(電気部)
1.「船舶」昭和26年(Vol.24)の広告
1)S26-01 |
・これはJRC(日本無線)の無線機の広告である。JRCは今も続く船舶無線の名門企業である。
・イラストから、受信機などは単体で取り付ける方式と思われる。やがてラック取付方式になり、コンソール方式になるが、その前段階であった。
・この時代は送信機も受信機も真空管を使用していた。 真空管は振動に弱く、また熱を放出するので、その対策は重要であった。
2)S26-02 明立電機の回転機 |
3)S26-03 三菱電機の回転機 |
・2)は明立電機の、 3)は三菱電機の回転機の広告である。 どちらも直流機である。
・明立電機の名前はその後聞かない。
三菱電機は 戦前から船舶電気機器の Leading Company であった。
昭和50年代までは手掛けていたが、その後採算が合わないためか船舶から撤退した。
4)S26-04 セイコー社の時計 手巻き |
5)S26-05 セイコー社の時計 無線室用 |
・これはセイコー社の船舶用時計の広告である。
いずれも手巻き式で、4)は Wheel House などに装備された3針式の時計で、5)は無線室用の時計である。
これには沈黙時間の表示がある。
毎時15分から3分間、45分から3分間は電波の発射は禁じられていて電信(トン・ツー SOS)の遭難周波数500KHzの聴取が義務付けられていたが、その時間帯を赤で時計に表示したもの。
さらに音声の遭難周波数2182KHzの聴取義務を示す表示もなされている。(毎時0分から3分間)
6)S26-06 日本電気精器の回転機 直流が主体 |
7)S26-07 東芝の回転機 |
・6)は日本電気精器の、7)は東芝の回転機の広告である。 いずれも直流機である。 東芝のような巨大企業が当時は船舶部門を手掛けていた。
8)S26-08 内外通商のレーダ RCAのレーダの代理店 |
・8)はアメリカのRCA製のレーダの広告である。
代理店は内外通商となっている。
当時は表示部には5”か7”の丸型のブラウン管が使用されていた。
周波数についての記述はないが、10cm波、3000MHz帯であったと思われる。
9)S26-09 輸出船 Yama 号の無線室 無線機はRCA製 |
10)S26-10 輸出船 Yama 号の Wheel House |
・9)、10)はディーゼル貨物船 Yama 号、フランス 向け輸出船の 無線室と Wheel house の写真 である。
「船舶」(昭和26年4月号)に掲載されていたので、珍しい貴重な写真と思い収録した。
この船は東日本重工 横浜で建造され、昭和25年12月に引き渡された。
・無線室の無線機はアメリカRCA製で、縦型のコンソール式の最新式のもので、国産機に比べはるかに小型で高性能であると記されている。
・Wheel House の中央にある黒っぽいものは磁気コンパスと思われる。
その後ろに操舵輪があり、操舵手が立つ真上の天井には伝声管(Voice Tube) が見える。
・これらの写真は 今後「無線室集」、「Wheel House 集」をまとめる ときに流用するつもりである。
11)S26-11 東京計量器の温度計 |
・11)は東京計量器の温度計で、このころはデータの計測は機側で行っていた。
12)S26-12 富士電機の電動操舵装置 |
・12)は富士電機の電動操舵装置の広告で、直流電動機で舵を駆動し、その動きをフィードバックするシステムが実用化されつつあったものと思われる。
13)S26-13 JRCの無線装置 |
・13)はJRCの無線装置で、1)と同じであるが、イラストの絵が異なるので取り上げた。
14)S26-14 日本電気の船舶用電話装置 |
・14)は日本電気の電話装置で、この当時は船舶用としては電源のいらない無電池式電話装置が用いられていた。
15)S26-15 神鋼電機の回転機 |
16)S26-16 コーンズ商会のレーダ他 |
・15)は神鋼電機の回転機の、16)はコーンズ商会が扱う輸入品のレーダなどの広告で、16)のラウドヘイラーとは Loud Hailer (拡声装置)のことか、
また ピトメータ・ロッグとは Pitot 管を使った Pressure Log (測程儀)のことと思われる。
当時は船尾から流す曳航式ログが一般的であったので Pressure log は最新の計器であった。
17)S26-17 東京計器の航海装置 |
18)S26-18 東芝の船舶用無線装置 |
・17)は東京計器の航海装置の、18)は東芝の無線装置の広告である。
東京計器はスペリーのレーダ、ジャイロ、ジャイロ・パイロットをPRしている。
東芝が無線装置まで手掛けていたとは知らなかった。
19)S26-19 日立の電線 |
・19)は日立の電線の広告である。
写真ではよく分からないが外皮に内部保護のため薄い金属を使っているようである。
電線メーカの広告にはこの他に藤倉電線や住友電工の名前も見られたが、社名だけだったのでここでは取り上げなかった。
20)S26-20 高田商会のレーダ |
・20)は高田商会が代理店を務める英国の Vickers のレーダであるが、造船所に勤務中見たことがないので、どんなものか知らない。 (RCA,ケルビン、スペリーなどは使ったことあり)
21)S26-21 旭電機の回転機 |
・21)は旭電機の直流回転機の広告である。
22)S26-22 日光商事のレーダ |
・22)は日光商事が代理店を務める英国 Kelvin Hughes のレーダの広告である。
日光商事の名はその後聞かない。
[メモ]
- 1)昭和26年の「船舶」の広告では、回転機メーカの多いのが目についた。三菱電機、東芝、富士電機、神鋼電機などの大手から明立電機、旭電機など知らないメーカまで多数である。主として回転機のPRで、殆んど直流機である。
- 2)レーダや無線機などでは外国メーカ(RCA, Kelvin Hughes, Sperry, Vickers) の窓口となる商社の広告が多い。 (内外通商、高田商会、コーンズ商会、日光商事など) 当時国産のレーダはまだなかった。
- 3)無線機関係では 東芝が広告を出しているのは今から見ると驚きである。
- 4)時計は、当時は全て手巻きである。 一週間巻きとか毎日巻きとか書かれているのが面白い。
操舵室、無線室には3針式の時計が使われていた。 秒針は航海計測に重要だったのである。
Control Room のなかった当時、Engine Room にはどんな時計が使われていたか興味がある。 - 5)機器の写真やイラストがはいっている広告を出来るだけ集めたいと思っているが、Yama 号の無線室や操舵室など、記事の中に珍しい写真があればそれも収録していきたいと思っている。