資料調査報告(No.12) : 2014年6月発行「フランス人の見た幕末・明治初期の和船」

フランス人が見た幕末・明治初期の和船 ― F. E. Paris 著“Souvenirs de Marine”より ―

F.E.Paris
(Alphonse Liébert 撮影、Wikipediaより)

François Edmond Paris (1806 – 1893) はフランス ブレスト生まれの海軍中将で文筆家でもある。 3度の世界一周航海に基づき、多くの絵や図面等を収集し、それらはパリの海事博物館に収められている。 海軍退役後は海事博物館の館長となり、同館の海事関連資料の充実に大きく貢献した。

F.E. Parisの業績の中で海事史上有名な著作の一つが世界各国の船に関する図面や絵画類を集めた“Souvenirs de Marine” (船舶の備忘録)で、1882~1908にわたって、パリのA.Bertrand社から出版された。 また1975年にグルノーブルのEditions des 4 seigneurs社より復刻版が出版されている。

F.E. Parisが本書を編纂した目的はその巻頭言に示されているとおり、忘れ去られ易い過去の船舶の記録及び保存である。 内容は360項目にわたる世界各国の船舶の図面や絵画でその数は1700におよぶ。 その一部を 添付資料1 に示す。 世界各国から様々な種類の船に関する資料が集められていることがわかる。
ここで紹介するのは、そのうちArmand Parisが1868年に来日した際に調査・計測した図面と彼が記述した当時の和船に関するレポートである。 A. ParisはF.E. Parisの息子で、様々な帆船の絵を描くのを得意としていたようである。

因みに、“Souvenirs de Marine”にはもう一つ、まとまった和船に関する図面が収録されている(ただし、解説文はない)。 1888年にフランスの造船技師Bertinが兵庫で計測した1500石積の弁才船の図がそれで、極めて精緻な船体構造図や船体線図が示されており、当時のフランスの造船技術の高さを偲ばせる。

本報告書は 表1 に示したSouvenirs de Marine の図番に従って該当図を配し、それに伴う解説文を和訳して示したものである。 なお、我が国で一般に用いられている和船の船体各部名称は赤字で示した。

表1 本報告書で取り上げた資料一覧 ( 計測者 フランス海軍大尉 A. Paris )

Souvenirs de Marine 図番 表題 計測場所、時期 等 本報告書の図番 備考
No.11
No.12
日本、“ふね”と称される船舶 1868年、
神戸に於いて計測
No.11-1
No.11-2
No.12-1
No.12-2
No.11は側面図、
No.12は平面、断面図を示す。
No.11に解説(帆柱立て含む)あり。
No.13 日本、ガレー船(注1) 1868年、
大阪の川で計測
No.13-1
No.13-2
図面と櫓の解説を含む。
No.14 日本、ワジマ候の紋章のあるガレー軍船 1868年、
大阪の川で計測
No.14 側図面と船の解説を含む。
No.15 日本、小型ガレー船及び江戸湾の漁船 小型ガレー船は横浜、漁船は根岸湾で計測
(1868年)
No.15-1
No.15-2
No.15-1は小型ガレー船、
No.15-2は漁船の図。
解説付き。
No.16
No.17
北の船 1869年、
函館で計測
No.16-1
No.16-2
No.17-1
No.17-2
No.16は側面図及び船卸図と解説。
No.17は平面及び縦・横断面図を
含む。
No.23 日本およびコーチシナの船に関する寸法、諸係数表 A. Paris作成 寸法、諸係数表に加え、
日本の船の特徴が
まとめられている

(注1) フランス語ではgalereでガレー船の意になるが、実際は大名の乗る船、即ち「御座船」と理解すべきである。

また最後に参考資料として以下を添付した。

本報告書作成に当たっての担当者は以下のとおりである。
日本語訳 : 小林 宏行 (海事代理士)
監修 : 石津 康二 (日本船舶海洋工学会 造船資料保存グループ)
技術解説 : 小嶋 良一 (日本船舶海洋工学会 造船資料保存グループ)

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