「籾山模型の魅力」 ~ 創業100年 父子二代で生み出した珠玉の艦船模型 ~

「籾山模型の魅力」 ~ 1. はじめに

船の科学館 飯沼一雄

かつて、船は竣工又は進水すると、造船所が模型を製作し船主に贈ることが習わしとなっていた。
こうした公式模型をビルダーズ・モデル或いは竣工模型と称し、籾山作次郎氏を代表とする「籾山艦船模型製作所」(戦後は長男 蔵太郎氏が代表となって「籾山船舶模型製作所」と改称)は、わが国を代表する竣工模型のトップ・ブランドで、かつては艦船模型愛好家であれば誰一人として知らぬ者はない誇るべき名工の標章でもあった。

[写真01] タイトル(籾山模型の魅力)

籾山模型は、時には100枚を超える実船の設計図書を集め、可能な限り正確な船体形状及び艤装品を再現する、金属部品は銀蝋又はネジ止めで接合し金メッキを施す、ハンドレール等の木部は木組みで接合しマホガニー等の素材を使い分ける、艤装品の組立て等に出来る限り接着剤を使わない、船体は乾燥した日本檜を用い日本古来の伝統に基づく漆塗りで仕上げる、など職人としての妥協を許さない完成度の高い模型製作手法を特徴としていた。

[写真02] 籾山艦船模型の特徴

しかし、こうして手間暇かけて製作する竣工模型も、戦後になって船の建造や運航に徹底した合理化や経済性が求められるようになると、魅力的な外観やデザイン性に配慮された船が少なくなり、同時に造船所が竣工模型を製作する習慣も次第に形骸化し、コスト意識の中で手間ひまかけた模型を船主に贈呈しようなどとは考えも及ばない時代となってしまった。

こうした現代にあって、改めて籾山模型を見ると、その実直さ、精密・精巧な仕上り、年月の経過を感じさせない重厚で堅牢な造り等は、見るものを飽きさせない美術工芸作品としての風格が備わっている。
しかも、その多くが公式図面に基づく造船所のビルダーズ・モデルや船主発注のオーナーズ・モデルとも言うべき公式作品であったから、戦時下写真すら僅かしか残されていない短命な船の場合など、それは数少ない歴史的資料であり存在証明といえるものなのである。

こうした籾山模型は、明治19年(1886)に生を受けた籾山作次郎氏と長男 蔵太郎氏の二代に亘る職人としての執念と情熱から生み出され、一時代を築いた作品群であった。

[写真03] 大正2年、創業期の作次郎氏と卯三郎氏

今日では、作られた模型の名称や正確な隻数すらも分からなくなってしまったが、平成20年(2008)12月、雑誌「世界の艦船」を発行する㈱海人社より同誌別冊として『日本軍艦模型写真集 伝説的な籾山模型ここに甦る』(以下、『籾山模型写真集』と略す)と題する画期的な写真集が発行された。 本書は、解説を泉 江三氏が執筆され、籾山模型を知ることのできる誠に貴重な類書のない写真集である。ここでは、本書並びに籾山家からご提供を受けた貴重な資料等に基づき、さらに深く籾山模型の全貌と魅力に迫ってみることにしたい。

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