「籾山模型の魅力」 ~ 創業100年 父子二代で生み出した珠玉の艦船模型 ~

「籾山模型の魅力」 ~ 4. わが国船舶模型の歴史

船の科学館 飯沼一雄

わが国船舶模型の歴史は、古くは4~5世紀の古墳より出土した船形埴輪にまで遡ることになるかもしれないが、現存しているものとしては、船大工が社寺に奉納した雛形模型こそが和製ビルダーズ・モデルのさきがけと言えよう。

今日確認できる最古の雛形模型は、元禄5年(1692)2月の年記と船大工の棟梁淡路屋□□衛門の銘がある大阪堺市博物館所蔵の弁才船の雛形模型である。

こうした雛形模型は、縮尺は1/10(中には1/20もある)、出来に優劣はあるが船大工が製作したものであり、船体の構造や細部の艤装、部品など極めて精巧に作られており、わが国で独自に発達した和船の代表とも言える弁才船の船型や構造・特徴について、特にその変遷を知ることの出来る数少ない貴重な立体的技術資料である。

[写真05] 社寺に奉納された弁才船雛形模型

和船における雛形模型の製作は明治時代になっても弁才船が作られた間、最後まで継続したといえる、また明治後期には洋式帆船の細密な奉納雛形模型も存在する。

それでは、幕末期以降の洋式艦船ではどのような模型が製作されたのであろうか、幕府は嘉永6年(1853)6月に米国のペリー提督率いる東インド艦隊(蒸気軍艦“サスケハナ”Susquehannaを含む4隻)が来航すると蒸気軍艦の存在に強い衝撃を受け、退去後僅か1週間ほどでオランダに蒸気船を発注した。

この結果、安政2年(1855)8月、オランダより寄贈され、わが国初の蒸気軍艦となった“観光丸”が到着し、続く安政4年(1857)8月“咸臨丸”、安政5年(1858)5月“朝陽丸”が相次いで竣工し引き渡された。 しかし、急いで建造されたためかこれ等の竣工模型は確認されていない。

確認できる初の艦船模型としては、オランダのヒップス・エン・ゾーネン造船所で建造された“開陽丸”の進水時の縮尺1/48の模型がある。簡素な模型ではあるが、船体形状は正確に再現され塗装も施され艦尾飾の中央には三つ葉葵の紋も描かれているが、竣工模型ではなく慶応元年(1865)の進水時における姿を再現したものである。

表01 わが国初期の蒸気艦船模型

[写真06] 蒸気軍艦“開陽丸”の進水時模型

これに続いて、確認できるのが同じくオランダのヒップス・エン・ゾーネン造船所に発注され明治3年(1870)に引 き渡された、木造スループ“日進”(常備排水量1,468トン)の縮尺1/48の模型である。籾山氏所蔵の絵葉書コレク ションの写真で、これはわが国の洋式軍艦として確認できる最初の竣工模型と言うことが出来ようか。

この2隻の模型は、所蔵する東京国立博物館の記録によれば、明治38年(1905)にベルギーのリエージュで開催された万国博覧会のオランダ館にて展示されたもので、わが国に寄贈され農商務大臣を通じて同博物館に明治39年(1906)寄贈されたものであるという。 従って、竣工時にわが国に届けられたものではない。

[写真07] 最も初期の竣工模型“日進”

その他、逓信省管船局が明治37年(1904)に刊行した『日本海運図史』には、明治16年(1883)3月に竣工した共同運輸会社所属の木造汽船“小菅丸”(1,416総トン)の縮尺1/48の細密な竣工模型が紹介されており、東京大学所蔵でかつて神田の旧交通博物館にで展示されていたこともあった。 本書には、他にも多数の和船雛形模型等が収録されている。

[写真08] 木造汽船“小菅丸”模型

竣工模型として象徴的なものが、船の科学館所蔵の戦艦“敷島”(常備排水量14,850トン)の縮尺1/48の竣工模型ではなかろうか。 本艦は、英国に発注した4隻の甲鉄戦艦の第1番艦で明治33年(1900)1月にテームズ造船所で竣工したが、それに先立って製作された文字通りの竣工模型で、台座には、His Imperial Majesty The Emperor of Japan( 日本の天皇陛下へ)と記されている。 完成に先立って、本艦を含む同型4隻の戦艦竣工時の威容を伝えるため製作されたものと思われ、極めて正確で細密に作られた正にビルダーズ・モデルと呼ぶに相応しい作品である。

[写真09] 戦艦“敷島”の竣工模型(船の科学館)

面白いことに、籾山氏が日参したという靖國神社の「遊就館」に、海軍省出品の戦艦“敷島”模型が展示されていた。 これも、籾山氏の絵葉書コレクションの1枚であるが、塗装や艤装、台座等を含めて船の科学館所蔵のテームズ造船所の竣工模型とは明らかに別作品である。 海軍省出品とのことからしても、海軍工廠で造られたものであろうか。

残念ながら、明治期の館内展示の様子は良く分からないが、いずれにしても籾山少年はこうした「遊就館」に展示してあった艦船模型を飽くことなく眺め、艦船模型の製作者にとなることを夢見たのである。

[写真10] 靖國神社「遊就館」に展示の“敷島”模型

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