資料調査報告(No.16) :2017年4月発行 WHEEL HOUSE, CONTROL ROOM 今昔(5) (平成7年~平成13年)
2017年4月 保存委員会 委員 大谷昇一
まえがき
前回の報告書「WHEEL HOUSE, CONTROL ROOM 今昔(4)」では、昭和60年から平成6年までの10年間を取り上げたが、本稿では平成7年から13年までの7年間を取り上げる。 平成13年までとしたのは雑誌「船の科学」が、2001年(平成13年)12月号を最後として休刊になり、その後の情報(写真など)の入手が難しくなったからである。 それで「WHEEL HOUSE, CONTROL ROOM 今昔」のシリーズは本稿で終了とする。
この間の建造船については、この時代もタンカー、ばら積船、コンテナ船、自動車専用運搬船などが多いが、性能面や装備面で見るべき点も多い。
まず操船性については、その向上を図るためカーフェリーを中心に、CPP, バウスラスタ、スターンスラスタなどを採用し、さらに横揺れ防止のためフィンスタビライザーを採用する船が多く建造されている。 この傾向はカーフェリーにとどまらず、RO / RO 船やPCTC(Pure Car Truck Carrier)、貨物フェリーなどにまで広がってきている。
速度については、30ノットを超える船(軽合金 水中翼船)も幾つか建造され、またコンテナ船では大型化が進み、大量コンテナの輸送時代の幕開けと云われる現象が見られる。
海洋気象観測船や漁業調査船、大学や高専の練習船ではコンピュータ化された観測機器などが多数搭載され豪華である。 また油漏れに対応した海面清掃船や海難救助船なども建造されている。 さらに内航船でも内航タンカー近代化船の検討がなされ、その成果が実船に適用されている。
制御技術面では前報告でも触れたが、造船各社が開発を進めていたコンピュータ・システム(IBS : Integrated Bridge System, Super Cargo など)がシミュレーション機能も付加され、実船に搭載され始めた。
また1990年代の初めより、32ビットCPUが使用され始めたが、1995年(平成7年)12月には Windows 95 が発表され個人でも Personal Computer として32ビットのコンピュータが使用できる時代になった。 メールやインターネットができ、画像処理も容易となり、船の世界にも大きな影響を与えた。 船内のLANに適用されるにとどまらず、衛星回線を利用して、航海データや機関部のデータを陸上に送信する「船陸間運航管理システム」が出現した(2001年)。 これにより、それまでなかった多数の船の運航管理や主機、発電機などの保守点検などが可能となった。
省エネルギー対策としては前報告と変わりはないが、ユニ・フューエル システム(主機と発電機エンジンの燃料油を同一にする)や軸発の採用などが増加した。
経済面ではドル・円は、1995年(平成7年)は94円、2001年(平成13年)は121円程度で、前の10年ほどの大きな変動はなかったが、高値で安定の時代になった。 原油相場は1バーレル 20ドルから26ドル程度で落ち着いていた。
本稿に収録した船と Wheel House, Control Room の写真は下記に示す。
1. 平成7年 WHEEL HOUSE, CONTROL ROOM
2. 平成8年 WHEEL HOUSE, CONTROL ROOM
3. 平成9年 WHEEL HOUSE, CONTROL ROOM
4. 平成10年 WHEEL HOUSE, CONTROL ROOM
5. 平成11年 WHEEL HOUSE, CONTROL ROOM
6. 平成12年 WHEEL HOUSE, CONTROL ROOM
7. 平成13年 WHEEL HOUSE, CONTROL ROOM
あとがき/まとめ
1. 前報告と同じように、平成7年から13年までの7年間の Wheel House, Control Room の写真を雑誌「船の科学」から収集し並べてみた。1. 前報告と同じように、平成7年から13年までの7年間の Wheel House, Control Room の写真を雑誌「船の科学」から収集し並べてみた。
2. この時代の建造船は、前の10年間と同じくタンカーやばら積船、コンテナ船などが多いが、時代の推移とともに高性能化も進んでいる。 その概要を下記に示す。
- (1) カーフェリーを中心に操縦性能の向上(CPP付き、バウスラスタ、スターンスラスタ、フィンスタビライザー装備など)が図られた(カーフェリー「こがね丸」 9,600 総トン、双胴船尾型 自動車航走船「はやぶさ」など多数)。この傾向はカーフェリーだけでなく、RO /RO 船(「CLEMENTINE」, 10,000 DWT、平成9年)、PCTC(「HUAL CAROLITA」、DWT 22,138 トン、平成11年)などにも及んでいる。
- (2) 高速旅客船の建造が目立つ。通常、高速旅客船といっても 21.0 ~25.0 ノット程度であったが、30ノットを超える高速旅客船が建造されるようになった(軽合金製 双胴高速旅客船「れぴーと エクセル」、32ノット 平成7年、単胴型高速カーフェリー「ゆにこん」、総トン数 1,498 トン、30ノット、平成9年など)。
- (3) コンテナ船の大型化が進んだ。平成9年に 5,700 TEU , DWT 81,8819 トンのコンテナ船「NYK ANTARES」が建造され、大量コンテナ輸送時代の幕開けと喧伝された。
- (4) 自動車専用運搬船でも大型化が進んだ(「NEW CENTURY 1」、Car搭載数 6,000台、当時世界最大、平成13年)。
- (5) 省エネルギー対策では軸発の採用が目に付いた。これは大容量の電力用パワートランジスタの開発が進み、周波数の変換が容易になったことによる。
- (6) 内航船でもタンカー近代化仕様の検討がなされ、その成果が折り込まれた(内航タンカー「第二日宝丸」、DWT 4,999 トン、平成8年)。
- (7) 漁業調査船、海洋気象観測船、大学、商船高専の練習船では、観測機器、研究設備でのハイテク化が進んだ。 (「若鷹丸」、平成7年、「凌風丸」、平成7年、「広島丸」、平成9年など)
- (8) 特殊な船としては、海面清掃船「みずき」(平成10年)、海難救助船兼曳船「航洋丸」(平成10年)などが挙げられる。
- (9) タンカーも積荷の種類がふえたり(プロダクトキャリア)、また異なる油を同時に積荷、揚荷できるよう配管を別系統にするなど高度化が進んでいる。
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3. 造船各社が開発を進めていたコンピュータ・システム(航海システム、機関部システム、荷役システムなど)はさらに進化し、これらのシステムを装備する船が増加した。
航海システムでは電子海図(ECDIS)が導入され、総合航海システムが確立されてきた(IBS スタイル)。それによりCRT 上で航海計画や自動運転の設定が可能となった。 また音声対話型の航海支援システムも出現した(平成9年)。 荷役システムでは原油の積荷、揚荷を事前にシミュレーションする機能を備えたシステムが登場した。(平成10年)
航海システムは総合化されたので、Wheel House の配置はさらにコンパクトにすっきりとしたものとなった。
4. 1990年代の末頃から衛星回線を利用して航海データや機関部データを陸上に送信しようとする試みはなされていたが、2001年に「船陸間運航管理システム」(自動車運搬船「NEW CENTURY 1」、三菱長崎建造)が開発され実船に搭載された。 これは船のインターネット化の始まりと言えよう。
船はそれ自体多くの要素を統合した一つのシステムであるが、その上に衛星回線のネットワークが構成され、何百隻もの船の航海データや機関部データがほぼ Real Time にて陸上で見ることができるようになった。 これにより船の運航管理や機関や発電機などの機器の保守点検が可能となり、この分野に新しい途が開けたことになる。
5. 本稿に収録したのは、船 72隻、写真は 船の写真を含め 201枚である。ここに収録した事例だけで平成7年から平成13年の7年間の船や Wheel House, Control Room の変遷を述べることはできないが、大よその傾向は掴めるものと思う。
6. このシリーズは本稿で終わりにするが、昭和20年代の半ばから平成13年まで、ほぼ50年間を Wheel House をベースに辿ってきたことになる。参照にしたのは船の雑誌「船の科学」と「船舶」であるが、戦後の建造船の記録をよくぞここまで残していただいたと驚くと共に、関係者の方々に感謝したい。
「船の科学」や「船舶」については、現役の頃からユニークな雑誌として知ってはいたが、忙しすぎて手に取ることはできなかった。 退職後、造船の技術や資料を残そうと云う保存委員会に委員として加えていただき、これらの資料を手にすることになった。
それらを見ているうちに、船の統括センターである Wheel House を見て行けば、船の変遷も見えてくるのではないかと考え、Wheel house を中心に記事を Pick Up していった。 実際にWheel House の変化は大きかったが、船の変化はそれ以上に大きかったように感じる。
タンカーの巨大化やばら積船、コンテナ船、自動車専用運搬船、カーフェリーなど多種の船の出現や大型化が急ピッチで進んだ。 クルーズ客船も誕生し、また船の高性能化も進み、30ノットをこえる高速旅客船も出現した。
その他のこの間に起こったことを列記すると、船のコンピュータ化、円高や原油高、それに対応するための省エネルギー化の推進、少人数化の推進などである。
コンピュータの進化により、今後も船の情報化(衛星回線によるネットワーク化、IoT 化、AI 化など)は更に進むと思われる。 どんな船が出現するか注目したい。
以上